弟子が師匠に対して自分の意見を言う。
徒弟制度に於いてはとんでもない事、あってはならない事です。
筆者は弟子に入ってからの三年間、挨拶と必要な伝達事項以外、一切口を利きませんでした。・・・そのせいで叱られましたが。(前述)
今回はそんな筆者が初めて好江に対して自分の意見を口にした時のおはなしを・・・
好江は生前、俳優さんを目指す方が通う専門学校で漫才の講師をしていました。
「なぜ俳優になるために漫才を?」とお思いになるでしょ? なんでも、自分自身を演出し、演技する勉強に漫才が最適なんだそうです。そんなわけでこの学校では二年次に漫才の授業がありました。
ウッチャンナンチャンのお二人が、好江と故・マセキ社長(会長)に見出されたのもこの授業での事です。
ちなみにこの学校、一年次には『農村実習』といって、農業を体験する授業がありました。
「なぜ俳優になるために農業を?」と思いになるでしょ?
・・・知りません。
筆者は19の時に鞄持ち兼聴講生といった形で初めて学校にお邪魔しました。
これはその翌年、笑組が20歳の時の事です。その年は前年と違い、見本(にもなりませんが)の漫才だけでなく、好江の隣に座り、生徒さん一組ずつに感じた事を言うよう命じられていました。
笑組と同い年の生徒さん達に、生意気とは思いながらも感じた事をお話ししました。
ところが好江は相方氏の意見に対し、ことごとくケチを付けます。きちんとした事を言っているのに、です。聞いている筆者まで眉根寄せるほど!正直、だったら言わせなきゃいいのに・・・と心の中でずっと思っていました。
翌日はテレビの仕事で、お付きは筆者一人でした。
好江と二人きりの控え室。
・・・昨日の事、言おうかな?
・・・でも怒られるだろうな。
・・・だけど言った方がいいよな。
・・・怖いな。
筆者、意を決しました!
「師匠、昨日の学校での件なんですが・・・」
「なに?」
「相棒が言った事にかなり厳しく対応してらっしゃったように感じたんですが・・・」「それで?」
「相棒が明らかに間違えているなら仕方ないんですが、ボクはそう思いませんでした。生徒さんの前であんな風に仰られると、次回から学校へ行きにくくなっちゃいますあの人。」
言っちゃった〜っ!! それまで鏡越しに話していた好江がくるりと振り向きました。
来るよ〜!これ絶対来るよ〜っ!!
「そりゃあたしが悪かった。」
お?
「確かにあんたの言う通り、かずおの立場も考えるべきだった。あんた達は師匠って呼んでくっるけど、あたしだって間違える事はあるから。沢山ね。だからあたしが間違えてると思った時には言ってちょうだい。今みたいに。」
この言葉が師として正しいかどうか、筆者にはわかりませんが、好江はそういう人でした。
後日、好江宅での事。
筆者に旦那様がこう仰いました。
「ゆたか!お前こないだ好江に小言を言ったらしいな!
いいぞ!ジャンジャン言ってやれっ!!
話しを聞いたがお前が正しい!好江が間違っとる!!
正しい事を言うのに師匠も弟子も関係無い!大いに言ってやれっ!!」
・・・旦那様のお気持ちは嬉しいんですが・・・師匠の前で言わないで!!
すると旦那様はこう続けられました。
「だがしかし、好江は自分の非を認めてお前に詫びた。そして黙っておれば隠せたのに、自分の恥を正直に俺に話した。だから好江はお前達の師匠でおれるという事を心に留め置きなさい。」
好江はニッコリ笑ってました。
旦那様に褒められるの大好きだったから。
ん? また旦那様の話しになっちゃった!!
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