好江が語った着物のなんだかんだ

漫才さんの修業ってどんなことすんの? 

これ、噺家さんから時々される質問です。疑問を持たれるのも当然だと思います。
落語はもちろん、太神楽や紙切り、奇術、俗曲といった他の寄席演芸は、芸そのものを師匠から仕込まれますが、漫才だけは各々の芸なのです。
たとえば、いくら師弟とはいえコロムビア・トップ・ライト先生のネタを青空球児・好児御両人がなさる事は無いし、獅子てんや・瀬戸わんや先生のネタを昭和のいる・こいる御両人がなさる事もありません。
うちにも生意気ですが、すっきりソングという弟子がおります。・・・ごめんなさい。このすっきりソングが笑組のネタをやる事も無いわけです。
恐らく彼らには出来ません。
・・・出来ないと思います。
・・・・・出来ちゃうかな?

なんかムカつくっ!! 

そんなわけでうちも、好江から芸そのものを教わった事はありません。
ではどんな修業をしたか?
それは身の周りの用事、つまり・・・

着物と三味線にまつわるなんだかんだです。

今回はこのなんだかんだの内、着物の話しにおつきあいください。
『内海好江といえば着物』
そんな印象を皆さんお持ちかと思います。実際に二十数年前、和装関係の雑誌で『着物が似合う有名人は?』という読者アンケートを採ったところ、女性部門では某大女優さんを抑えて「内海好江さん」が一位でした。
ちなみに男性部門は「古今亭志ん朝さん」が一位だったように記憶しています。
(好江没後、笑組は志ん朝門へ移りました。)
好江はお金が無い娘時分から、方々の呉服屋さんをまわって「着物を見る目」を養ったそうです。お金無いから見るだけ。迷惑。
筆者が入った頃には、当然ですがどっさり着物を持っておりました。
いつかこんな事がありましたね・・・
和箪笥で、着物を仕舞う抽斗を「お盆」といいますが、ある日好江がいきなり
「このお盆一つ!」と言うので
「何ですか?」と訊きますと
「このお盆一つ分着物買わなきゃ あたしゃマンションが買えたね。」と。
「もったいない感じがしますね。」と言うと、

だってマンションは着て歩けないだろ?

筆者がもったいないと言ったのには理由があるんです。うちの師匠ね、着物が箪笥に入りきらなくなると・・・誰かにあげちゃうの。マンションならあげられないでしょ?だからもったいないって言ったんです。
 “誰かにあげちゃう”で思い出した事が一つ。細かく書くと特定されちゃうので、ふわっと書かせて頂きます。
笑組もご招待頂いたあるパーティーでの事。会場へ向かってホテルの廊下を三人で歩いていると、我々の数メートル先に同じパーティーにご出席なさると思しき女性芸人さんのお姿。
「前歩ってんの誰だろうね?」
「○○姐さんですよ。」と答えると
「えっ!?○○ちゃん!?  ずいぶん可愛い帯締めてるねぇ・・・  
あの子わりといい趣味してんだ。ちっとも知らなかった。ちょっとー!○○ちゃーん!」 呼ばれたので振り返る○○姐さん。
「あ!おはようございます!」
「あんた可愛い帯締めてるわね~  凄くいい帯よ。どこで買ったの?」
「えっと・・・あの・・・頂きました・・・」
「あらそう。お客様から?」
「いえ・・・あの・・・好江師匠から・・・」
「あたしっ!?あぁそう。やっぱりね。」

やっぱりとか言っちゃダメーっ!!

好江は漫才の衣装としては水色、桃色、藤色、といった淡い色目を好みました。濃い色はギュッと締まって小さく見えるから駄目なんですって。あと、淡い色でも緑色は好きじゃないって言ってました。
ところがある日、その日は演芸番組の収録だったんですが、いつものように師匠の家へ行くと、その日に着る物としてやや濃い目の緑の着物が出ていました。
「え?今日これお召しになるんですか?」 と訊ねると
「うん。頂き物なんだよ。  あんまり好きな色じゃないんだけどね。せっかく下さったんだし一度テレビで着ればその方も喜んでくれるだろうから、今日はそれ着るわ。」と。
それからひと月ほど経って、今度は舞台の仕事の日。またその着物が出ていました。
「あれ?またこの着物ですか?」と訊ねたら
「こないだのテレビ見て良かったって言ってくれた方が何人かいてね。
あたしゃやっぱり好きじゃないんだけど見た方があいいって言ってくれりゃ
あたしの好き嫌いじゃないの。いいか悪いか決めるのはお客様だからね。

弟子が言うのはみっともない事なんですけどちょっと格恰良いでしょ?
着物の思い出、もう一ついいですか?
師匠宅でテレビを見ていると前述とは別の某大女優さんが、それはそれはふんだんに金箔をあしらったお着物でご登場なさいました。そんでこの方の凄いのは、その美貌がお着物に負けてないところ!
筆者が思わず「わ~光ってる!」と言うと、
「凄い着物だね~!」と好江。
「ピカピカしてますね。」
「でもこれは○○さん(大女優)だから いいんだよ。」
「負けてませんもんね。」
「あたしらが着りゃキ××イだよ。」
さて、実は本日、修業中の着物をたたんだりや着付けをしたりの事を書くつもりで筆を取りましたが・・・お時間でございます。  


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